夢みたもの
そんなつもりはない。

‥‥裏切ってるわけじゃない。


あたしにとって、航平もユーリも凄く大切な存在で、どちらかを選ぶなんて出来ない。

その気持ちも‥‥前と少しも変わらない。

それでも、ユーリに対する後ろめたさは消えそうになかった。



「どうかした?」


宮藤君が不思議そうに首をかしげる。


「何か問題でも?」


「‥‥うぅん 何でも‥」


あたしは顔を上げると、笑顔を作って宮藤君を見上げた。

少しだけ頬が引きつる。

ユーリへの後ろめたさゆえの胸の痛みは消えない‥‥でも、あたしにはどうしたら良いのか分からない。

どうして胸が苦しくなるのかも分からなくて、頭は混乱し始めていた。


「‥‥あ、」


‥‥ただ、宮藤君を前にして、あたしは小さな嘘をついた。


「ありがとう‥元気になれそう」


「‥‥どういたしまして」


あたしを見つめていた宮藤君は、一息吐いてゆっくりまばたきをすると、もう一度スポーツバックを肩に掛け直した。


「じゃぁ‥そろそろ行くね?」

「‥うん。ホントにありがとう」


もう一度お礼を言うと、あたしと宮藤君は、それぞれ反対方向へ歩き始めた。

宮藤君は生徒会室の方向へ。

あたしは、混乱した頭を冷やして冷静になる為に、ただ、少しでも早く宮藤君から離れたかった。



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