夢みたもの
「‥あ、雪村さん」

「‥え?」


その声に振り返ると、さっきとそれ程変わらない位置で、宮藤君があたしを見つめて立っていた。

ジャージのポケットに手を突っ込んで肩をすくめた宮藤君は、あたしを見ると小さく苦笑する。


「‥もし、堤に会う事があったらさ、俺を使うのはやめろって伝えておいてくれる?」

「‥あ‥うん‥‥それって‥?」


意味が分からなくて首をかしげると、宮藤君は一息吐いてから口を開いた。


「さっき‥この面倒な事が大嫌いな俺が、どうして助けに入ったと思う?」

「‥‥」

「俺の隣で、顔色が変わるぐらい心配してるくせに‥、意地と臆病風に吹かれて動けないヤツに呆れたからだよ」

「‥‥」

「陰ながらって言うか‥‥本当に陰になって、見守って、さり気なく助けて‥‥そんな見返りを求めない行動に、さすがの俺も呆れ返ってさ‥‥」


「雪村さんはどう思う?」そう付け加えて、宮藤君は小さく笑った。


「バカだと思わない?」

「‥‥」

「でも、少し羨ましいかな‥?」

「‥‥え?」

「そこまで想えるのも、想われるのも‥‥凄いと思うね」


そこまで話すと、宮藤君は首をかしげてあたしを見た。



「だからさ、たまには、自分の気持ちに正直に行動して良いと思うよ?」



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