夢みたもの
どれくらいの時間、そうしていたのか分からない。


頭の中が真っ白で‥‥

時が止まってしまったかのように、何も聞こえない。



「‥‥ごめん」


唇を離した航平は、うつむいて呟くようにそう言った。

航平の柔らかい髪の隙間から見える頬が赤い。


あたしは思わず、右手で口元を押さえた。

頭は混乱して、まだ何も考えられない。


ただ、指先が触れる唇に残る感触は、今なお鮮明で‥‥

あたしは、ただ呆然と航平を見つめた。


「‥‥ごめん‥」


少しの沈黙の後、航平はもう一度そう言って顔を上げた。

まだ、頬がほんのり赤い。

あたしと目が合って、頬をさらに赤くした航平には、いつもみたいな大人びた雰囲気は無かった。


「‥ホントごめん‥‥でも‥」


航平はあたしの頬に手を伸ばす。

そして、反射的にうつむきかけたあたしの頬を包み込むと、親指で頬の膨らみを優しく撫でる。


「‥でも、どうしても‥‥ひなこを誰にも渡したくない」

「‥‥」

「どんな事があっても、俺が守るから」


航平はあたしを引き寄せると、その意外に広い胸の中にあたしを抱き締めた。


「だから‥俺から離れないで」



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