夢みたもの
『何か弾こうか?』


あたしが笑顔を見せたので安心したのか、ユーリも心なしかほっとした様子で首をかしげた。


「いいの?」


あたしの言葉に僅かに微笑むと、ユーリはピアノに向かう。

そして、一瞬、惹き込まれそうな艶っぽい雰囲気を醸し出すと、ユーリの繊細な指が鍵盤の上で動き始めた。



「‥‥あ この曲‥」


流れるようにピアノから聞こえてきたのは、ユーリ作曲のいつもの曲。

アレンジが変わって、いつも以上に繊細で柔らかい曲調になっている。

あたしはピアノに寄りかかるように頬杖をついて耳を傾けた。


「あたし‥この曲、凄く好き」


呟くようにそう言うと、ユーリは嬉しそうに微笑む。

その笑顔が見れた事が嬉しくて、あたしはユーリに笑い返した。



柔らかくて穏やかな空間。


昔、ユーリとその家族と過ごした幸せな時間を思い出す。


幸せを感じたあの時間。


明日がくる事が待ち遠しいと‥‥初めてそう思った。

未来に希望を持つ事が大切だと‥‥

あたしも、夢や希望を持って良いんだと‥‥

あの時からそう思えるようになった。



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