夢みたもの
「ホント何でもないの。‥ほら、そろそろ進路とか考えなくちゃいけないじゃない!?そう思ったら気が重くて‥‥」


心配そうな表情を浮かべたユーリに、あたしはそう言って誤魔化した。


言った事は嘘じゃない。

将来についても考えるべきで‥‥

実際、鞄の中には、数日前から進路希望のプリントが入ったままになっている。


でも、あたしには、何一つ答えを見つけられそうになかった。



『でも、この学校は付属があるって聞いたけど?』

「‥あ、うん」


ユーリの言葉に、あたしは歯切れの悪い返事を返した。


『何か問題でも?』

「うぅん‥両親も付属を勧めてくれてる。でも‥あたし、なりたいものが無くて‥」

『‥‥』


また、心配そうに見つめるユーリに、あたしはため息混じりに苦笑して言った。


「だって‥あたしには何も無いんだもの」


航平やユーリみたいな才能も。

葵みたいな強く真っ直ぐな心も。

鞠子みたいに人を和やかにする力も‥‥


あたしはいつも、誰かに助けられているだけ。

そんなあたしが、将来にどんな夢を持てるだろう‥‥


ため息を吐いたあたしの前に、ユーリのノートが差し出される。


『焦る必要はないよ。まだ1年ある』

「‥うん、そうだね‥‥」


1年なんてあっと言う間。

そう思いながらも、その気遣いが嬉しくて、小さく頷いて苦笑した時。

ふと、楽譜に隠されるようにして譜面台に置かれた本に目が止まった。



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