夢みたもの
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「‥‥ひなこ‥」


遠くで声が聞こえる。

誰かが呼んでる。


どうしたんだろう?

体が動かない。



「‥‥ひなこ!!」



呼んでるのは‥‥誰?



「ひなこ!!」


あぁ‥

聞き覚えのある声‥‥

良く知ってる。

あたしを優しく包み込む声だ。



連呼される名前を心地よく聞きながら、あたしはぼんやりと目を開けた。



「‥‥航平‥」


「ひなこっ!!」



あたしを覗き込んでいる航平。

その表情は‥‥

今まで見た事がないぐらい、くしゃくしゃだった。


眉根を寄せて、髪を振り乱した航平。

いつもニコニコ笑ってるのに、今にも泣き出しそうな顔をしている。



「‥‥どうしたの‥航平?」

「‥‥ひなこ‥」


航平に手を伸ばそうとしたあたしは、背中に鋭い痛みを感じて顔をしかめた。


「‥‥あたし‥‥?」


やっと‥‥自分が置かれている状況が気になった。


航平の後ろに見えるのは、厚い雲に覆われた灰色の空。

葉の落ちた木々。

背中には、固いアスファルト。


そして


遠くから聞こえてくるのは‥‥

救急車のサイレンだった。



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