夢みたもの
「ねぇ‥‥泣かないでよ‥?」


あたしがもう一度そう言った時だった。



「見付けた」


そう言う低い声と共に、突然目の前が明るくなる。

一瞬、眩しさに目を閉じたあたしは、恐る恐る声の主を振り返った。


「‥‥!!」


そこに居たのは

一番会いたくない相手。


短く癖のある髪。腫れぼったい瞼。背はそれ程高くないけれど、筋肉質でガッチリした体格。

昔、体育教師だったというその人は、幼いあたしを見て目を細めた。


「ひなこは本当に、かくれんぼが好きだねぇ‥?」

「‥‥」

「どうして隠れようとするのかな?」

「‥‥」


幼いあたしに向かって伸ばされる腕。

ぬいぐるみを抱き締めて身を縮めた幼いあたしを軽々と抱き上げると、その人は小さく笑った。


「いい子だ‥‥今日は外に出なかったんだね」

「‥‥」


幼いあたしがそうしたように、あたしも思わず肩を震わせた。



「園長先生〜、ひなこちゃん見つかったぁ?」


無邪気な声がして、バタバタと足音が近付いてくる。


施設で一緒に育った子達。

どういう経緯で施設に預けられたのか知らないけれど、中には期間が決まって預けられた子も居る。

家が‥家族が大嫌いで‥‥

帰りたくないと泣く子が居る。


あたしは、そんな子達が羨ましかった。

あたしには、帰る場所が何処にもなかったから。



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