夢みたもの
それは、思いがけない申し出だった。


「‥‥」


今でも、男の人が怖いのは変わらない。

目の前の崇さんを放っておく訳にもいかない。

でも

崇さんに触れて、怯える姿を見せたら‥‥崇さんをもっと傷付けるかもしれない。


「‥‥あの‥」


迷うあたしに、やがて崇さんは恥ずかしそうに笑った。


「あぁ‥ごめん。ちょっと心細くてね‥‥気にしないで」


そう言った崇さんは、凄く寂しそうで‥‥


「‥‥」


気付くとあたしは、膝に置かれた崇さんの手をしっかり握り締めていた。


「‥‥ひなこちゃん」


驚いた表情で目を見開いた崇さんに、あたしは自然と笑いかけていた。


「大丈夫です」

「‥‥」

「大丈夫ですよ、崇さん」

「‥‥」

「絶対、大丈夫です」


何度も繰り返すと、それは真実になる気がした。

皆がユーリの無事を祈ってる。

その願いが叶わない筈がない。



「ありがとう」


そう言って、崇さんはあたしの手を握り返す。

そして、重ねた手を見つめながら、ぽつりと呟いた。


「もう誰も‥失いたくない」

「‥‥」

「約束だよ‥?ひなこちゃんも、僕の前から居なくなったりしないで」

「‥え?」

「ひなこちゃんも、僕の大切な人の一人だからね」


崇さんはそう言うと、寂しげに小さく笑った。



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