夢みたもの
聞こえてきた曲は有名な曲じゃない。

母の影響でピアノ曲の大半は知っているけれど、そのどれにも当てはまらない。



優しく流れるような旋律。

それでいて、力強い。

簡単なようであって、高度な技巧。


完璧なオリジナル曲。



でも、それより驚いたのは・・・


あたしが、この曲を知っているという事だった。



記憶にうっすら残る曲とは、少しだけアレンジが変わっているけれど、確かに聞いた事がある。


「何で?」


あたしは小さく呟くと、特別棟の2階を見上げた。



知ってる。

あたしは、この曲を知っている。


ずっと昔・・・幼い頃に、あたしはこの曲を聴いていた。

大のお気に入りだった。


そんな気がする。



でも、どうして、あたしは聴いた事があるんだろう?

誰が弾いていたんだろう・・・?



未だ鳴り止まないピアノ。


そのピアノの音に導かれるように、あたしは特別棟の2階に向かって歩き出した。

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