夢みたもの
  §──・…‥:‥…・──§


私達夫婦は、ひなこの母親をよく知っている。


笹原 恵。

詩織の生徒の1人。

その中でも、突出した才能を持った彼女は、詩織のお気に入りだった。


もしかしたら、両親を早くに亡くしたという彼女に、詩織は自分を重ねていたのかもしれない。

よく家に呼んで、プライベートでも親しくしていた。


それが、全ての始まりだったのだと‥‥今は思っている


 §──・…‥:‥…・──§



そう、綴られた日記。


あたしは黙って続きを読み進めた。


日記には、おじさんが未来のあたしに向かって独白している部分と、幼いあたしの日常が織り交ぜて書かれている。


ユーリやアンナとの事。

幼いあたしが、夜うなされている事。

園長が何度も家に来た事。

興信所を使って、施設の実状を調べ、母を探す事にした事。


中でも多くのページが割かれていたのは、園長の事だった。



  §──・…‥:‥…・──§


今日もあの男がやって来た。

施設の責任者だと言うが‥‥おかしい。

ひなこを自分のものだとでも言うように、執拗に引き渡せと言う。


目付きの悪い男だ。

いつも、じっとりとまとわりつくような印象を残して帰っていく。

詩織が気持ちが悪いと言う。

私も同感だ。


とても施設を運営するような人格者には見えない。

あんな男に、ひなこを渡す訳にはいかない


 §──・…‥:‥…・──§




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