夢みたもの
  §──・…‥:‥…・──§


今日の夕方。

帰宅途中のひなこの前に、あの男が現れた。


ひなこを1人にしては危険だと、ユーリを一緒に登下校させていたが、とうとう我慢が出来なくなったらしい。

何て男だ。

たった1人の少女に固執するなんて、異常としか思えない。


幸いにも、帰国した崇が通りかかって事なきを得た。

良かった。

本当に良かった。


これ以上ひなこを傷付けたら、私達は2度と恵に顔向け出来ない。

せめて一緒に居る間は、私達が守らなくては。


 §──・…‥:‥…・──§



そこまで読んだあたしは、一旦顔を上げて息を吐いた。

生々しく蘇る園長の記憶。

今でも、あの時掴まれた腕の感覚を生々しく思い出す。

あの恐怖は、きっと忘れられない。



「許せないな‥‥」


「‥え?」


その声に振り向くと、眉根を寄せた航平が日記を睨むように見つめていた。


「叶の父親がここまで警戒してる。それだけこの園長が異常だった‥って事だよ」

「‥‥」

「ひなこがどれだけ苦しんできたのか‥それを思うだけで‥‥堪らないよ」

「‥航平」


あたしは小さく呟いた。


険しい表情の航平。

航平のこんな表情を見たのは、今まで数える程しかない。

そう思いながら、あたしはふと沸き起こった不安に肩を震わせた。



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