夢みたもの
「昔は、笑顔の絶えない人だったの。‥‥今は、落ち着いた大人の男性になって‥見違えたわ」

「‥‥」

「でも、私達は出会うのが早過ぎた」

「‥え?」

「あの頃‥、私達はまだ若かった。感情だけではどうする事も出来ない事が沢山あって‥‥その全てを受け入れるには無理があったの」

「だから‥何も言わないで居なくなったの?」

「‥‥」


あたしの言葉に、母は一瞬驚いた表情で目を見開いた。

でも、すぐに納得したというように小さく頷いて笑った。


「あぁ‥、あの日記には、そんな事も書かれていたのね」

「読んでないの?」

「勇気がなくて‥‥」


母は小さく笑った。


「ひなこがお腹に居る事が分かった時、凄く嬉しかったの。でも、まだ高校生の崇君に、その責任を負わせる事は出来なかった。崇君の絵の才能を潰してしまいたくなかったの」

「じゃぁ‥あたしと一緒に居る処を見たのが十何年ぶりかの再会だった‥?」


あたしがそう言うと、母は小さく頷いて苦笑した。


「あの時は目を疑ったわ。ひなこの身近に崇君が居るなんて‥想像した事も無かったから。しかも、ずいぶん親しそうで‥‥ひなこが私と崇君の事を知っているんじゃないかと気が気じゃなかった‥‥」

「‥‥」


あの後しばらく、あたしに対する母の干渉が酷かったのを覚えてる。

てっきり援交の心配でもしているのかと思ったけど‥‥


「そうだったんだ」


色んな事一つ一つが、意味を持って繋がっていくような気がした。



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