夢みたもの
「あ、そう言えばそうだね」


あたしは小さく笑って頷いた。


冬休みに入る前までは、まだちらほら噂されていたのに、いつの間にかそんな話は聞かなくなった。

入院したり、ユーリのお見舞いに忙しかったから、気付かなかったのかもしれないけれど、最近は、すっかり以前と変わらない。

それに気付いたのは、茶道部の結花ちゃんに話しかけられたからだった。



「皆‥さすがに飽きたのかな?」

「まぁ‥そうとも言うかしら」

「何か知ってるの?」


あたしがそう言うと、葵は肩をすくめて苦笑した。


「生徒会長が何かしてたみたいよ?」

「宮藤君が?」


予想もしなかった名前だった。



「彼‥ああ見えて、堤君とひなこの事がお気に入りなのよ」

「‥‥」

「『雪村ひなこは、この宮藤の誘いに乗らなかった。遊んでると思ったのに、ちょっと近付いただけで子犬みたいに震える、つまらない女だ』って噂を流したのよ、彼」

「‥えっ!?」


思わず眉根を寄せて声を上げたあたし。

そのあたしを見つめながら、葵は楽しそうに笑った。


「あぁ‥やっぱり、ひなこならそういう反応してくれると思ったわ」

「‥え?嘘なの?」

「嘘じゃないわよ」


笑いを堪える葵の肩が小刻みに震える。


「彼、この手の噂話に事欠かない人だから‥噂はあっと言う間に広がって、皆、結構すんなり受け入れたみたい」

「‥‥」

「まぁ‥元々、ひなこを少しでも知ってる人は疑問視してた噂だったし、噂が消えるのは早かったわね」

「そう‥だったんだ」


あたしの反応を楽しそうに見つめる葵。

その様子に苦笑しながら、あたしは、全てが良い方向に進む気がしていた。




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