夢みたもの
「そう言えば、叶君はそろそろ退院出来るそうね?」


ひとしきり笑って満足したのか、葵は、少し声を落としてそう言った。


「あ、うん‥そうなの」

「本当に、元気になって良かったわ」

「うん。心配かけてごめんね」

「何言ってるのよ。でも、彼‥‥」


葵がそう言いかけた時だった。



「ひなこっ!!」


教室に響き渡る声。

その声と共に、鞠子が頬を赤く染めて教室に飛び込んで来た。


「ちょっと、ひなこっ!?」

「え‥なに?」

「『なに?』じゃないよぉ!!」


息を荒げた鞠子は、音を立てて机に手を置くと、あたしに顔を近付けた。


「え、何‥鞠子?‥‥ちょっと‥近いってば」

「相変わらず落ち着きがないわねぇ‥‥」


呆れる葵に一瞬視線を逸らしたけれど、鞠子はすぐにあたしに向き直る。

そして、ぐっと耐えるような表情を見せると、鞠子は声を落として呟くように言った。



「叶君が‥‥ウィーンに帰るって‥本当なの?」




< 604 / 633 >

この作品をシェア

pagetop