夢みたもの
「今日は駄目ね。皆、編入生の噂に気を取られて、全然集中してない。途中で注意するのも嫌になったわ」


「どこが良いのかしら?」眉を寄せてそう呟くと、葵はあたしを見て笑った。


「だから、気にしなくて良いわよ?」

「ありがとう。ごめんね」

「代わりに、ひなこの珍しい姿が見れたから」

「え?」


ニヤリと笑った葵を見て、あたしは、再び体が熱くなるのを感じた。


「あ、あれは・・・」

「ひなこも大変よねぇ?」


葵はニヤニヤ笑いながら、ウンウンと頷いてあたしに視線を送ってくる。


「ベストカップルって、素敵な響き・・・」

「葵・・・知ってた?」


自然と上目遣いになりながら、あたしは葵を見た。


「何が?」

「その・・・航平の断り文句・・・って」

「もちろん」


「当たり前でしょ?」と付け加えると、葵はあたしの肩に手を置く。


「だから、前から言ってたでしょ?『ひなこは大変ね』って」

「何で教えてくれなかったの!?って言うか、葵はその話を聞いた時、ちゃんと訂正してくれたよね?」

「するわけないじゃない」


葵はそう言うと、愉しそうに笑った。

< 82 / 633 >

この作品をシェア

pagetop