夢みたもの
「ひなこって、鞠子が一緒に居るのにそういう噂に疎いわよね。あぁ でもこの内容だと、さすがの鞠子もひなこには言えなかったのかもしれないけど」

「恥ずかしいよ・・・」


あたしは呟くように言った。


「航平が何考えてるのか、サッパリ分かんない」

「そうかしら?私には単純明快に見えるけど?」


葵はそう言うと、茶室の中を覗く。


「そろそろ次の席が始まるけど、入る?」

「あ、うん」


少し気後れ気味に頷いたあたしは、茶室に向かって足を踏み出した瞬間、ハッとして立ち止まった。



微かに聞こえてくる音。


それは、ここ数日、気になって仕方なかったピアノの音だった。

この前の曲じゃないけれど、この弾き方は間違いない。


「ひなこ?」


先を行く葵が不思議そうに見た。


「どうかした?」

「あ、うぅん」


「何でもない」そう言いかけたけれど、ピアノの音が気になって、あたしは再び立ち止まった。


「ひなこ?」

「ごめん。やっぱ今日は帰る」


自分でもよく分からないけれど、居ても立ってもいられない。


「ごめん。またね」


葵にそう言うと、あたしは体が動くまま、荷物を抱えて茶室を飛び出していた。


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