今夜、月に彷徨うユートピア
私の場合、それは今から約2カ月後の7月21日。
その日の深夜12時。
7月21日から7月22日に変わるその瞬間、私はこの世から消えるのだ。
怖くないと言えば嘘ではあるが、でも怖いのかと言われればそうではない。
寧ろ、自分の大好きな親友の彼氏を好きである気持ちを持っていても花吐き病を理由に消えられるのだから、良かったかも、なんて。
まあまだ、消える実感などが無さすぎるためなのかもしれないが。
私は病院から渡されている特別なゴミ袋を棚から取り出して、ばさりと広げた。
真っ黒い袋に吸い込まれる綺麗な花たちが、あまりにも憎たらしかった。
そういえば、何故今になって花を吐いたのだろう。
花吐き病にかかっている人全員そうなのかは知らないが、私の場合は快斗くんのことを強く思ったり、好きだなと想ったときに花を吐くのだ。
なんで今…ああ、そうじゃん。
今日の昼、千奈実と一緒にランチを食べる約束してるんだった。
早く準備しなきゃ。
そして、千奈実の前では絶対に花を吐かないように気を付けなければ。
なんとしても、私が花吐き病なことはバレないように。
なんとしてでも。
そう改めて心を決め、気持ちを切り替えるようにぺチリと頬を叩いた。