今夜、月に彷徨うユートピア

「えっ…!?めい?」


その千奈実の声に現実へと引き戻される。
どしたの?と覗き込む千奈実の顔が涙で揺れていることに気づき、慌てて自分の目を両手で覆った。


「……嬉しくって」


ぽつり。
そうこぼした声は千奈実の耳まで届いただろうか。


「ほんと?…ふふ、ありがとう」


目を覆っていても、今、千奈実がとても優しく、ふわりと笑っていることが分かる。


「…うん、嬉しい」


これは、嘘じゃない。
だからといって、本当でもない。

でも、正解だ。


「ちょっと〜!泣かないでよ!」
「泣いてないから!」
「こ〜ら、強がるんじゃない〜!」
「…んっへへ、」


そんなことを言う千奈実だけど、私の手をとびきり優しく握ってくれている。
そんな千奈実にまた、涙が溢れ出しそうになった。


「いいねぇ…、結婚、か…」
「うん…。まだ実感ないけど」


千奈実がへへ、とおちゃらけるように、でも幸せそうに笑う。

この笑顔が見れるなら、もう失恋でもなんでも良いかもしれない。
…うん。
私はそう思っているから。
そう思っているよ。

そう自己暗示をかける自分が馬鹿みたいで、虚しくって、滑稽で。
誤魔化すようにはは、と笑い返した。
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