今夜、月に彷徨うユートピア
「快斗も連れて来たかったんだけどね、仕事が立て込んでるみたいで」
「…そっか、」
「うん」
そう言ってくしゃりと困ったように笑うもんだから、なんだか少しいたたまれなくなって、「…あ、そーいえば、結婚式とかどうすんの?」と声を掛ける。
「あっ、あっ、そのことなんだけど」
「…うん」
「これ」
そう言って差し出されたのは、結婚式の華やかさをそのまま落とし込んだような綺麗な葉書。
どうやら私の家から小一時間かかる、少し大きめの式場で結婚式を開くようだ。
「7月21日にするんだけど…」
どくり。
自分の心臓が飛ぶように跳ねて、ぎゅっと絞られたような感覚になる。
7月21日。
もし、私の花吐き病が治らなかったら。
その日が、私の命の最期の日だ。
これがどれだけ皮肉なことか。
私の最期の日が私の好きな人の結婚式なんて。
運命なんて、奇跡なんて、ない。
いや、もはやこれが運命なのか。
いずれにしろ私は二人の結婚式に出席するだろう。
いや、必ず、する。
片想いの相手とか、その前になんたって、大好きな二人だから。
「来てくれる?」
机上の葉書から千奈実の方に視線を運ぶと、千奈実は彼女特有のつぶらな瞳でじぃっと見つめ返してきた
「…ふふっ、勿論。行くに決まってるじゃん」
その答えにいひひ、と笑う千奈実。
すると、そのまままたぴしり、と背筋を正した千奈実。
私も背もたれに預けていた背中を伸ばした。
「…ん?」
「そこでですね!私達の一番の友達である皐月さん!」
「うぇっ!?は…はい、」
こくり、と一度唾を飲み込む。
「スピーチをお願い出来ないでしょうか!」
「…えっ」