今夜、月に彷徨うユートピア
あれから、幾度となく花を吐いた。
二人のスピーチを考える時。
結婚式に行く格好を考える時。
二人と連絡を取り合っている時。
よく結婚を告げられた時、花を吐かなかったと自分でも思う。
だけど、その我慢が後から影響したのか、はたまたこの身体が花びらになる日に近づいてきているからか。
体調不良も起こしがちになり、少し快斗くんに関係することになれば花を吐くようになった。
『追憶』という意味の花であるシオンを吐いたときはこの恋を過去のものに出来ているのかと安心したが、その次の日には『嫉妬』の意味を含むマリーゴールドを吐いて落胆した。
また他の日には『嫉妬、悲しみ』の意のヒヤシンスと一緒に、『絆』の意の橙色の薔薇を吐いたこともある。
心底、つらかった。
大事な二人の結婚を祝う気持ちと、快斗くんを想う気持ちが混在していることが。
自分がどれだけ上辺で取り繕っても、花に自分の本当の気持ちを誤魔化すことはどうやら出来ないらしい。
矛盾したこの気持ちを吐き出したい。
でも吐き出せるのは花だけ。
ぐるぐると混乱したままの感情を、一体どうしたら良いのだろうか。
何も解決策を見いだせないまま、淡々とした毎日を花と共に暮らしていった。