今夜、月に彷徨うユートピア
コーン、と大きな鐘の音が鳴る。
「新婦、入場」という言葉と共に純白のドレスに身を包んだ千奈実が、彼女の父親の腕に手を添えてドアの先に姿を現した。
見つめ合う千奈実と快斗くんを拍手が彩り、二人を結びつける。
当然私も、二人に拍手をたくさん送った。
「新郎 君島快斗、あなたは伊藤千奈実を妻とし、健やかなるときも、病めるときも___」
神父が一つ一つ、丁寧に言葉を紡ぐ。
背中を向けた二人だが、ほわほわと幸せオーラが滲み出ているように見える。
「はい、誓います。」
神父へとしっかり顔を向けて、言い切った快斗くん。
あの時から、変わっていない。
覚悟を持って大切な人を守る彼の姿は、確かに私が好きになった快斗くんだった。
「では、新婦 伊藤千奈実。あなたは君島快斗を夫とし、健やかなるときも___」
ふわり。
ベールがそんな音をたてるように揺れる。
「病めるときも___」
ちらり。
千奈実の瞳が快斗くんの方へと動く。
「喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも__」
かちり。
その瞳を、今度は快斗くんの瞳がそっと掬う。
「夫を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い__」
くすり。
愛しい人を見守るように千奈実が微笑む。
「その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
くすり。
その笑顔に応えるように口角を上げて快斗くんも微笑む。
その微笑みに満足したように更に千奈実は笑うと、前に向き直し、「はい、誓います」と、心底幸せそうにそう言った。
彼らの一つ一つの些細な行動が私の心を削っては縫い削っては縫って、不幸と幸福を詰め込む。
それが苦しいのかつらいのかすら分からないほど、この場の雰囲気が最高に幸せに包まれていた。