今夜、月に彷徨うユートピア



__「あ……あ、あ」


うん、良し。
くるりと二人のいる席に視線を動かせば、
ああ、夫婦って似るのかなぁ
二人同時にうん、と笑って頷かれた。
それに私も笑い返すと、すぅと息を吐いて


「こんにちは」


と声でマイクを震わせた。


「只今ご紹介にあずかりました、小川 皐月と申します。快斗さん、千奈実さん、ご結婚おめでとうございます。かしこまるとうまく話せなくなってしまいそうなので、いつものように快斗くん、千奈実、と呼ばせてください」


緊張して上手く話せなくなっているのだろうか。
いつもよりも喋るスピードが速い。
沢山の人の目が一気にこちらを向いているという事実に急に怖くなって、思わずチラリと二人の方を盗み見る。
流石と言うべきか。
それにすぐに気づいた二人は、更に笑って頑張れ、と口パクで伝えてくれた。
それにふぅ、ともう一度息を吐いて、前を向く。


「新婦の千奈実と出逢ったのは高校の時でしたね。1年2組、窓際の2列で隣の席になったことがきっかけで仲良くなりました。中々人に声をかけることが出来ない私に話しかけてくれたことがとても嬉しかったことを、今でも鮮明に覚えています。」


懐かしい。
当時の千奈実は今より髪が短いショートカットで、とても輝いて見えたのを覚えている。
それから、千奈実は陸上部に入って、私はテニス部に。
活動の場所が違っても毎日約束して一緒に帰ったんだっけ。
大学も、示し合わせてないのに志望校が一緒で、笑い合ったりもした。
それで、一緒に会場に行って試験を受けて、一緒に合格発表を見に行って泣き笑いながら合格を喜んだんだっけ。

それがもう7、8年前。
大親友は幸せな家庭を築き、私は花になると当時の少女に教えてあげたら、どんな反応をするのだろう。
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