今夜、月に彷徨うユートピア

嫌だ、嫌だ。
まだ、駄目だから。

そんな私の想いも虚しく、ついに花が私の口から出てきてしまった。
青紫色で手のひらサイズの可愛らしい小さな花、スカビオサ。
花言葉は___


『不幸な愛』『私は全てを失った』


ああ、もう、本当に___。


「……っ、!ふぅっ…ぅっ…!!………っ、」


せき止めていたダムが崩壊するように、私の双眸から涙が溢れだしてきた。

今日一日は大丈夫だと思っていたのに。

大好きな人の結婚式で花を吐くわけにはいかない。
24時間で途絶える命だ。
花なんかに捕らわれず彼を好きなだけ見つめて、彼にとって自分が大事な人のまま悔いのないように最期を迎えたい。
私のそんな願いを受け入れてくれた私の担当医は、花吐き病の抑制剤を処方してくれた。
一錠で5時間ほど保つそれ。
一日に一錠だと忠告を受けたが、それだとギリギリ結婚式中に効果が切れてしまう。
その為、医者の忠告を無視して2錠一気に服用したのだ。

確かに副作用として、効果が切れた後は花を吐く量が急に増加したり、脱水症状を起こしがちになるとは聞いていたが、効果が軽減するとは知らない。

単純計算で効果が保つのは10時間。
家を出る時に服用し、未だ4時間しか経っていない。
本来の時間よりも短い時間。


すべてが、すべてがうまくいかない。
もう嫌だ、この恋心も、この病気も、馬鹿みたいに苦しんでいる私自身も。

もう、すべてが___



「……ふうっ……っ、早く、消えたいっ…」


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