今夜、月に彷徨うユートピア
はぁ、と一息ついて、頬に残っていた涙を両手で拭い取る。
もう、これ以上この身体に涙が残っていないと思えるほどに、泣いた。
トイレを出て鏡を見ると、ファンデーションは崩れ、鼻と目が真っ赤になっていた。
「…ふふっ、…はぁ」
こんなにも泣きじゃくったのは大人になって初めてじゃないだろうか。
それが友達の結婚式場のトイレだなんて、何だか不思議な気持ちになるけれど。
しかし、急いで戻らなければ。
友人がきっと待っていることだろう。
ちょっと、心配してくてるかな、なんて。
千奈実と快斗くんももしかしたら心配してくてるかな。
…あれ。
快斗くんのことを考えたのに、花を吐かない。
まだ5時間も経っていないから抑制剤の効力が未だ働いているのだろうか。
そうだとしても、あと1時間くらいでもしかしたら薬の効力が切れてしまうかもしれない。
なんとかしてここから早く帰らなければ。
タイムリミットは花を吐くまで。
「…よし。」
そう少し呟きながら頬をペチリと叩き、自分の席まで足を進めた。