今夜、月に彷徨うユートピア
こちり。
左手に付けている腕時計の長針がまた一分、時を進めた。
あれから、1時間と10分。
私の予想は中々に的中していたようで、未だ花は吐いていない。
抑制剤の効果は未だ続いているようだった。
安心した、良かった。
その安堵の気持ちと共にふぅ、と息を溢した。
結婚式はもう終わり。
全員ばらばらと立ち上がって動き始めている。
「あ、めいーーーー!」
すると、千奈実が手を広げてどん、と抱き着いてきた。
うわ、と声をあげて、両手を彼女の背に添えながらとんとん、と叩く。
「ふふふ、おめでとう」
「もぉ、それさっきも聞いたよ、何回目?」
「ふふ、本当におめでたいからね~」
「んふふ」
周りに花が散るように笑った千奈実。
何より、幸せそうで良かった。
「ね、めい、二次会だって、行こ!」
そう言って私の肩をとんとんと叩いた。
…来た。
ここを抜けられる瞬間。
二人には申し訳ないが、快斗くんへの気持ちを葬るためにはここにいてはいけないのだ。
中々動かない私を不審に思ったのか、めい?と首を傾げた千奈実の瞳にかちり、と自分の視線を合わせた。