今夜、月に彷徨うユートピア

「ごめん、千奈実!!!!」


両手を前に出して、なるべく傷つけないように。
友達が自分の結婚式の日に消えていなくなる、なんて事実を隠してしまうように。
ぎゅっと目を瞑り、そう謝った。


「私、明日急ぎの仕事入っちゃって二次会行けなさそう…」
「えーー、まじ?」
「ほんっっっとごめん!!!!」


実際はもう既に退職はしているのだが。
もうすぐ最期が来るのではないかと焦っている私には、この言い訳しか思いつかなかったのだ。

頭を下げてそう言った私に気づき不思議に思ったのか、どうしたの?と声を掛けながら快斗くんがこちらまで歩いてきた。


「あっ…」


思わずゴクリと唾を飲み込む。

お願い、ちょっとだけ抑制剤の効果、残ってて。


「快斗〜めいが2次会行けなくなっちゃったらしくてさ」
「え〜、マジ?」
「うん」
「う〜ん……無理そう?」
「……、うん…ほんとに、ごめん…」


なんとかその願いが通じたのか、花は吐かず、喉がきゅるりと鳴るだけで済んだ。


「そっか…でもしょうがないよね…頑張って就職したところだもんね」


そう言って快斗くんは困り眉のままくしゃり、と破顔した。


「……っ、!…ほんとに、ごめん…」
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