今夜、月に彷徨うユートピア

そんな顔、しないで。


大丈夫だよ、また会おう。
そんなことを言ってくれるような優しい顔をしないで。
私、今日、消えるのに。
早くこの気持ちを葬らなきゃいけないのに。
そんな顔されちゃ、帰れなくなる。


「ううん、大丈夫。明日、頑張ってね」
「ありがとう…」


さらにふわりと笑ってそんな言葉をかけてくれる快斗くん。
千奈実はわざとらしく、ぷくぅと頬を膨らませていた。


「ちょっ…ふははっ、千奈実!良いじゃん、大丈夫だって!」
「…なに」
「また会えるって、な?」
「……っ、」


その快斗くんの言葉に、思わずずきりと胸が痛んだ。
もう、本当のことを言ってしまおうか。
花吐き病になったんだって。
それで、今日花になって消えちゃうんだよって。


「…ふふっ、分かってるよ、大丈夫。」


だけど、その笑顔と、二人の結婚を祝福した日に、消えるだなんて言うことはできなかった。
その代わりか、渇ききったと思っていた涙が私の頬に伝う。


「えっ、ちょ、めい!?」
「なになに〜?大丈夫だよ〜」


二人が安心させるように肩を撫でてくれる。


「本当に、ほんっっっとうにありがとう…!」


喉から必死に声を絞りだして零した言葉に、二人はまた、私の大好きな笑顔で笑った。


「大丈夫だって!」
「うん!またね!」
「……うん、じゃあね、バイバイ」
「うん、またな〜」
「バイバイ〜!」
「……ばいばい」






そのせいで。
嘘でも「またね」だけは言えなかった。



散々これまで、嘘をついておいて?
何を、今更。


ごめんね、許して。
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