今夜、月に彷徨うユートピア

ぱち、と部屋の電気を付ける。
淡い白色に染まったこの狭い部屋が、案外名残惜しいような。


……怖い。
かもしれない。
だって、消えるのだから。 

それで、なんだか、不安かな。
私が消えた後、どうなるんだろ。

あと、悔しい。
こんな馬鹿みたいな、夢みたいな病気で消えてしまうなんて。



でも、安心もあるような。
だって、やっと快斗くんへの気持ちを葬れるのだから。




色々な感情がぐるぐると渦巻く。
どんな感情でここにいたらいいのだろうか。
いや、実際正解などないのだが。

ふと、時計を見ればもう既に夜の10時過ぎ。

悔いはなるべく減らしておいた。
会社を辞めて約1ヶ月の間、悔いを無くすようにずっとやりたかったことをやってみたのだ。
まぁ、結婚するとか、一戸建てを買うとか、簡単に出来ないことはそりゃ出来ていないけど。
徹夜でゲームとか。
高いアイス爆買いとか。
そんなこと。

正直、めちゃめちゃに楽しかった。
確かに、暇を持て余すことも多々あったけど、『娯楽』と呼ばれることをあまりに久々にした気がして、楽しかった。

でも、わざわざ花吐き病にかかって、消えると分かっていないとこれらを楽しめなかったのだと気づいた時、なんだか虚しかった。
お前は常に孤独だと突きつけられる事実に、悲しいと思った。

こんなよく分からない感情のまま最期を迎えるのは少しいただけないが、しかしもう、今ではどうしようもないのだ。


あとは、時が過ぎるのを待つだけ__。

< 38 / 47 >

この作品をシェア

pagetop