今夜、月に彷徨うユートピア
「…もしもし?」
『あ、めい?ごめんね、こんな夜に。寝てなかった?』
「ううん、大丈夫。そろそろ寝ようか考えてたとこ」
永遠の眠りにね、なんちゃって。
そんな冗談を考えられるくらい、意外にも私の頭は焦っていないようだ。
『えーほんと?じゃあ、5分だけ、話そ』
「えー?何それ、何か伝えたいこととかあったから電話したんじゃないのー?千奈実が電話なんて、珍しいし」
ふふってちょっとからかうように笑ったら、電話の奥からもははっと笑い声が聞こえた。
『あははっ、確かに、いつぶりよ?ってくらい電話久しぶりだよね〜、』
「結構会ってたからね〜」
『でもね〜…ほんとに、ちょっと、話したかっただけ』
「えー?どーしたのさ、急に」
少しだけ、声のトーンを落とした千奈実にそう問いかけると、暫くの沈黙が私達を囲む。
何故か少し、冷や汗が私の背中を伝った。
『いやー…ほんとはさ、なんかね、』
少し尋ねただけでもう嘘をつけないところに千奈実の正直さが垣間見えて、なんだか嬉しかった。
でもきっと、そんなところを快斗くんは好きになったのだろうと思うと、この1年、嘘を吐き続けた私にとって、その正直さは妬むほどに羨ましかった。
『快斗も言ってたんだけど、別れる時、すっごいめいが悲しそうで…なんか、怖くって…』
心臓が待ってましたと言わんばかりに跳ねる。