今夜、月に彷徨うユートピア

『もしもし』
「あ、快斗くん?」
『うん。千奈実もいるよ』
『いるよー』
「ははっ、いてくれなきゃ困るよ」
『はははっ、確かに』


更にその笑いにつられて思わず、ふふ、と声をこぼした。
それにまた電話の奥の二人も笑って。
暖かい、安心できる空気が私達の周りを囲む。

そのまま、今日はあーだったとか、こーだったとか、色々な話に花を咲かせたら想像以上に時間が経っていたらしい。



ここにいられるのは、残り3分のようだ。





「あ、そうだ、今日急に帰っちゃってごめんね」
『ううん、大丈夫だよ』


さっきから、快斗くんのひとつひとつの心臓が音を立てて跳ねる。
それと比例するように、お腹の中でぐるりと何かがかき混ぜられる。
花になる準備だろうか。
なんとも言えない不思議な感情が、私の心にまとわりついていた。


『大丈夫だよ、めいのことは大好きだから、何でも許す』
「何でもって笑」
『そうそう、許す許す』
「そんな軽くー?笑」


秒針がかちりと音を立てた。
あと、2分。


「そんなことを言ったら、私の方が二人のこと大好きだから何でも許しちゃいそう」
『え、ほんと?昔、私がご褒美に買ってためいのアイス食べちゃったのも許してくれる?』
「それはなし!」
『なんでよ〜!笑』


あと、1分と30秒。


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