今夜、月に彷徨うユートピア

「…そっか〜、ふふっ、ありがとうっ…!」


喉にきゅぅっと何かが這い上がる。
そのままたった、たった一輪だけ。
小さな白い、星型の花を吐いた。


『当たり前のことだからね!…ふふっ、それじゃーね』
『またね〜』
「…ありがとう、……ばいばい…!」

 
無機質な音を立てて暗くなった画面に、ひとつ、涙が零れ落ちた。
あと20秒。




「……っ!はぁっ…ふっ…!」




快斗くんは私のことが好きだった。
彼を好きになった私でも、彼にとって私は大切な友人だった。

何故か分からない。
何かも分からない。
だけど、確実に私の中で枷のようのものがカチン、と音を立てて外れた。













「………もう少しっ、生きてみたかったっ……!」



あと、15秒。
先程吐いた花をぎゅうっと握る。
今になって後悔してももう遅い。

もっと生きてたら、二人に「またね」と返すことが出来たのだろうか。
また二人と、一緒に会えたのだろうか。
二人に笑顔を向けられたのだろうか。
もうどれも、何も叶わない。
すべてが、すべてが今更で。
遅すぎて。


あと、10秒。

私の嗚咽と時計の針の音だけがただ響く。
私の気持ちなんて知らずに、時は進む。








カチリ。
7月22日00:00
タイムリミット___



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