今夜、月に彷徨うユートピア
「んー、まぁね、岡野が良かったから?」
「…え」
想像していた答えとは真逆過ぎて、思考がフリーズしてしまった。
なんですか、先生。
それ、期待しちゃいますよ。
とか心の中で問いかけてみるも、先生には勿論届かない訳で。
未だ固まっている私を見た先生はふはっと笑って「そんな固まる?」と言い、またははは、と笑い出した。
「英語係だし、岡野が一番俺に慕ってくれるしね」
「え、私が一番なんですか」
「う~ん、多分?あ、こんなの先生は言っちゃ駄目か」
「いや、私にとっては嬉しいですけどね」
まあそりゃ、小川先生が英語教師だから英語係になったし、好きだから近づいているし。
無理だってわかっていても。
“先生”って呼んでる時点で、もう駄目だって分かってるんだけどさ。
恋をしてはいけないってことも、全部全部分かってるんだよ。
「先生教えるの上手ですから」
「えー?媚び売ってる感じ?」
「それ、本人に言う言葉です?」
「ふはっ、ごめんごめん」
それでも、それでもどうしようもなく好きなんです。
「もー!先行きますよ!」
「そんな怒んないで、ごめんごめん」
小川先生が“先生”だと分かっていても、それでも大好きなんです。
「行きますよー!」
「はいはい」
あ、その顔。
その「はいはい」って呆れるその顔が、一人の“生徒”に対する顔で、嫌いです。
でも、そんな先生が好きです。
なんて。