今夜、月に彷徨うユートピア

「んー、まぁね、岡野が良かったから?」
「…え」


想像していた答えとは真逆過ぎて、思考がフリーズしてしまった。

なんですか、先生。
それ、期待しちゃいますよ。

とか心の中で問いかけてみるも、先生には勿論届かない訳で。
未だ固まっている私を見た先生はふはっと笑って「そんな固まる?」と言い、またははは、と笑い出した。


「英語係だし、岡野が一番俺に慕ってくれるしね」
「え、私が一番なんですか」
「う~ん、多分?あ、こんなの先生は言っちゃ駄目か」
「いや、私にとっては嬉しいですけどね」


まあそりゃ、小川先生が英語教師だから英語係になったし、好きだから近づいているし。
無理だってわかっていても。
“先生”って呼んでる時点で、もう駄目だって分かってるんだけどさ。
恋をしてはいけないってことも、全部全部分かってるんだよ。


「先生教えるの上手ですから」
「えー?媚び売ってる感じ?」
「それ、本人に言う言葉です?」
「ふはっ、ごめんごめん」


それでも、それでもどうしようもなく好きなんです。


「もー!先行きますよ!」
「そんな怒んないで、ごめんごめん」


小川先生が“先生”だと分かっていても、それでも大好きなんです。


「行きますよー!」
「はいはい」


あ、その顔。
その「はいはい」って呆れるその顔が、一人の“生徒”に対する顔で、嫌いです。
でも、そんな先生が好きです。
なんて。
< 5 / 47 >

この作品をシェア

pagetop