今夜、月に彷徨うユートピア
「まぁ、来ないよねぇ」
もう時計の針は長針短針ともにてっぺんの数字を通り過ぎようとしている。
無理矢理連絡先を渡したとはいえ、先生が連絡をしてくるかどうかは別な訳で。
あんな、先生があんな帰し方をするからこうやってスマホを握りつつ待ってしまうんですよ。
なんて心の中で思いながら、ぐりぐりと枕に顔をうずめ、足をバタバタと動かした。
You Tubeやインスタを開きつつ、たまにLINEを開く。
先生のIDは知らないため、会話が表示されているわけでもなんでもない。
ただ、「知り合いかも?」に追加されるのを待っている。
「……先生が悪いから」
ボタンをポチリと押してスリープにしたスマホを机に放り投げ、もう一度ばふんと枕に顔をうずめた。
今日みたいに英語係はもう一人いるくせに私だけ呼び出したことは過去にもある。
当然だけど、そこから何か進展があるわけでもなく。
寧ろあったら駄目だけどさ。
でもそれでも、期待してしまう。
何かないかな、
好きって言っちゃおうかな、
先生が好きって言ってくれないかな、
なんて、あるはずもないのに期待してばかり。
でも、それは期待させるような行動ばっか先生がとるからなんだ。
先生が期待させるのが悪い。
だから思いを閉じ込めるための蓋も開けっ放しで好きを注ぎ続けている。
でも、そんなのも悪くないかもしれない。
この微妙な距離も、それはそれで良いものだ。
この上手く進まない恋だって、案外愛おしい。
先生にわざわざ期待してしまう自分のこの気持ちも、先生に思いを伝えたい気持ちも、それを駄目だと拒む曖昧な気持ちも、全部全部嫌いじゃない。
「…寝よ」
もう既に日付は変わった。
夜の月も既に西に沈みかけている。
もう一度だけ連絡が来ていないかスマホを覗いてからもそもそとベッドに潜った。
「…せんせー好きですよー」
いいじゃないか、こんな恋でも。
あ、そうだ。
やっぱり連絡来ないかな、なんて期待したせいでなかなか寝つけなかったことは、秘密にしておこう。