令嬢と婚約者、そして恋を知る
翌日、予定のなくなったわたしはナディルと護衛を伴い街に繰り出した。
学園が長期休みなのだし領地に戻るのもいいかなと考えもしたのだけど、お兄様が先日出立したところ。今から追いかけても追いつけないし、かといって転送門を使用して先に領地に帰り着くのも、どちらもちょっとどうかなと思って。
転送門は魔導術で各地を繋げていて移動に便利なのだけど、魔導力に適性のないわたしは時にふらついてしまったりもするのよね。
せっかくの機会、どうせなら楽しもう。そう考え直したら気分が高揚してきた。
街中をゆっくり歩いたことは、あまりない。今では人生の大半を王都で過ごしている形にはなっているとはいえ、それは学園があるからだ。そして学園のある間は寮暮らしで外出には許可が必要だし、そもそもその敷地内でほとんどの用が事足りる。休みの間だって自分で買い物に出る必要もない。
学園から、またプライベートで、出掛けることはあっても観劇だとか、お茶会やパーティーだとか、目的地の決まっていることが多いから。
あてもなく出歩くというだけで、わたしにとっては一大イベントのようなものだった。
季節は春とあって、街路樹や花壇などに見る緑が瑞々しい。綺麗に晴れた空の下を歩くのはとても気持ちがいい。