令嬢と婚約者、そして恋を知る
わたしは迷子のように
「エヴィ、エヴィ」
鳴いた小鳥が姿を変じて、手紙となる。ひら、と手のなかへと落ちてきたそれに目を落とすと、つい先日届いたものと同じ筆跡で綴られた文字が並ぶ。
プレゼントについての礼と感想、デートについての詫び、改めてデートがしたいから予定を教えてほしい旨、それらが彼らしい生真面目な文章となって記されて。そして、しばらく王都に滞在する、と――。
だけどそれは……彼女と会うためなのではないの?
きっと仕事上の理由で領地を離れたのだろうと考える自分もいるのに、一方で、芽生えた疑いが胸を焦がす。
もともといずれ解消される可能性のあった関係だったけれど、でも、だけど、
――いっそ婚約解消を申し出てくれたらいいのに。
デートの予定がなくなったわたしがふらりと街に出掛けたあの日、約束をキャンセルしたはずのルーカスの姿がすぐそこで目撃されていた。目撃者は護衛のカルロ。
どうやらわたしたちがカフェから郵便舎へと移動している時に、付近の店舗に女性をエスコートして入っていくところだったとか。
彼の姿なら遠目からでも分かるつもりでいたのに、お父様に信頼を置かれているだけあってさすが視野が広い……なんて感心している場合ではない。それを耳打ちで知らされたナディルは血相を変え、わたしの分まで取り乱していた。
わたしとの約束をキャンセルしてまで会う相手。
それも、二人きりで。
せめて理由を話してくれていたなら信じられたかもしれない。それが実際には何の説明もなく、逢瀬はその一度きりでもなかったらしい。学友からわたしを心配しての便りや密告が、手紙として一通、二通と届くほどには噂になっている。
「ナディル、そんな顔をしないで」
「ですがお嬢様……!」
「お返事はひとまず保留しておきましょう」
近くにいるから会おう、なんて言われても、こんな状況では気が進むはずもない。どうせ約束したところでまた彼女が優先されるのかもしれないと思えば、予定に思い巡らせることすら億劫だった。