令嬢と婚約者、そして恋を知る
*


 春休みが明け、学生たちは学園へと戻った。
 わたしもまた、お兄様に遅れて帰った領地での短い家族団欒を終えて、転送門を通り抜け兄妹揃って王都へと。しばらくの間とはいえ実家暮らしをしていると、寮生活に戻ることが、もう何年も繰り返していることだというのに少し心細い。


 夏学期が始まる。


 学園で過ごす日々はもちろん楽しい。友達と毎日顔をつきあわせるのも学生時代の特権で、休みの間は恋しく感じていたくらい。
 それでもいつも、休み明けの最初だけは慣れるのに時間がかかる。どうしたって環境の変化があることは否めないし、領地でもタウンハウスでもそばについてくれていたナディルがいないことが一番大きいだろうか。

 彼女がそばにいて何でもないおしゃべりをたくさんしたおかげで気持ちはどうにか落ち着いて、彼にそうした相手が現れたならそれはそれで良いことなのだと考えられるようになってきた。

 わたしたちは所詮は狭い世界に生きてきたから、だから、そう、外の世界に踏み出すのはきっと良いことに違いない。

 学園での日々は四年目も終わりが近づいて、それはつまり、お兄様の卒業がそこまで迫ってきているということ。

 お兄様はルーカス同様、お父様の後継者としてまずは補佐の仕事を学んでいくことになるはず。やりたいことがあるなら当面の間は自由にして構わないと両親は言っていたけれど、本人は王城勤めをして上り詰めようという野心もないと言うし、興味のある分野の研究にだけは関心がある様子だったけれど。

「それでは、また後ほど」
「いってらっしゃーい」
「お兄様によろしくお伝えくださいね」

 長期の休み明けの初日だけは、お友達とではなくお兄様とランチをすることになっていた。人見知りでなかなか学園に馴染めなかったわたしを気遣ってくれて始まった習慣が、今も続いている。

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