令嬢と婚約者、そして恋を知る


 学園の長期休暇中、結局あの子と会えたのは王女殿下の誕生祭の日のみだった。予定外に父上の代理として王都滞在という機会に恵まれたというのに。

 もちろん、こちらの都合もあった。エンリックとアンヌ嬢とは結局その後も何度か顔を合わせることになってしまったし、父上の指示を受けては走り回ることもあった。
 しかし一番の理由はやはり、彼女に避けられていたことだろう。

 何度か誘いをかけたものの、理由をつけては躱された。
 最初は忙しくしているのだろうと、会いたい気持ちを抑え、あの子が元気で楽しくやっているならいいかと考えていた。……そんな自分を殴り飛ばしてやりたい。

 妙な噂が立つなど考えもしていなかった。そんな噂があると聞かされても心当たりなんてなくて戸惑ったくらいだ。

 エヴィ以外に興味を持ったこともなかったからこれまで女性と二人きりになることもそうそうなかったし、最近会った人物といえば仕事上では指の数では足りないほどだが、そんな風に見える雰囲気が出ていたはずもない。

 心当たりを捻り出すならアンヌ嬢ということになるのだろうと結論づけてからも、何故そんな噂となったのか、どうしてそう思う者がいたかが分からない。そもそも常にエンリックと一緒だったというのに。発端となった母上に相談したところで「あらまあ」と焦りも何もあったものではない。ああやはりこんなことを引き受けるべきではなかったのだ――。

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