令嬢と婚約者、そして恋を知る


 落ちるため息が重くて息苦しい。

 手紙は何度も送った。それでもこれについてはどうにも書くことが出来なかった。どうしたって言い訳めいて、自分でも胡散臭い印象にしかならなかったのだ。顔を合わせて話せたら……そんな希望を抱いて今日まで来たけど。

 後手に後手に回っている気がする。全てがすでに遅いような気さえしてきて、握り締めた手が震えて仕方ない。

「やっぱり先に僕が説明しとく方がいいって、」
「……しつこい」
「随分と神経逆立ててるみたいだけど、そういうのは君じゃなくて僕ら兄妹の方だと思うけど?」
「何度も言うように、そんな関係じゃないんだから問題ない」
「噂にまでなっているのにそんなこと言うんだ?」

 痛い――。セルジオは痛いところをそうと分かっていて突いてくる。痛いからこそ塞げない耳のかわりに口調が荒れている自覚はある。

 約束を違えることになったあの日、手紙に一連の流れを説明していれば。突然の訪問でもなんでも、会いに行っていれば。……こんな噂は立たなかったかもしれないし、立ったところで笑い話にすることも出来たかもしれない。

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