令嬢と婚約者、そして恋を知る


「アンヌと申します。お会い出来て光栄です」
「仲良くしてね、僕の婚約者なんだ」
「嘘です。まだですから」
「時間の問題だろう?」

 デレデレとにやつくエンリックは、誰かに紹介するという経験があまりなかったのだろう、普段より少々興奮気味なのが見て取れる。アンヌ嬢に窘められても「つれないところも可愛い」と、それすら嬉しそうに笑う。出会った当初は周囲に興味を持たず愛想のない奴だと思ったものだったが、それはお互い様か、幸せそうで何よりだ。

「いつまでも立ち話をしていても仕方ない。食事を用意しているから入ってくれ」

 奥へと促し、二組で向かい合いテーブルにつく。エヴェリンが手ずから摘んだ花を飾ったテーブル上に、順々に出てくるのは今日のためにとシェフと相談し用意させた料理。客人であるエンリックたちを歓迎するような華やかさのあるもの、そしてエヴェリンの好きなもの。
 会話の取っ掛りにでもなればと考えて。和やかな空気を作り出すには美味しい食事と相場が決まっている。

 隣を見れば、食用花を浮かべたスープや果実の酸味をきかせた冷菓など、エヴィはやはり目を輝かせていたけど、なかなか口数が増えないのは予想通りといえばその通り。
 元来人見知りな彼女は、今ではすっかり人付き合いに慣れてこちらが寂しく感じるほどではあったが、心底から打ち解けるには今も時間がかかるようだ。

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