令嬢と婚約者、そして恋を知る
わたしはもう子供ではない
一人ふらりと離れていくお兄様を見送って会場を回れば、次から次へと見知った顔が現れる。同年代ならばほぼ学園で顔を合わせるし、王女殿下の誕生祭は春休みに入ってすぐに行われるため学生にとっても日程的に参加しやすく、わたしも三年連続でご招待に応じることが出来ていたりと、顔ぶれが変わらないのもあると思う。
「ルーカス! 来てると思った、久々だな!」
「領地に戻ってからなかなか顔を見せないもんだから、忘れるところだったぞ?」
「悪い、暇が出来なくてな」
「転移門通って来ればすぐだろうが」
一人、二人と、次第にお友達に囲まれていくルーカスの邪魔にならないよう、そっとその輪から離れる。
視線を巡らせてみるとこちらに手を振る学友たちに気づいて、お話中にもちらりと向けられた視線に身振りで示し彼女たちのもとへと向かった。
「エヴェリン、あなたも来ていたのね」
色とりどりのドレスに身を包んだ学友たちが、うふふと微笑んで迎えてくれる。
「ええもちろん。お祝いの席よ、参加出来るならしたいもの」
「王子様方の誕生祭はいつも参加出来ていないものね」
「そうなの。なかなか予定がね」
現国王には四人のお子様方がいらっしゃる。つまりその誕生祭だけでも一年で四つ、すべてに顔を出すというのはそれなりにハードなことだった。
とはいえ学友が参加出来ているのだから、わたしだけが予定が合わないわけもない。
「こっそり来ればいいのに。協力しましてよ?」
彼女は頬に添えた手に隠すように、にやりと赤い唇に笑みをのせる。
つまり、そういうこと。わたしには兄と婚約者の二人から制限をかけられている、二人のどちらかと一緒でなくてはならないと。
まあもともとわたしが社交的でないということもあって、むしろありがたい気遣いと感じていたこともあったのだけど、外でのお付き合いが増えると不参加を見咎められるようで少し気を使う。
「……考えておこうかしら」
「その気になったらお声をかけてくださいな」
とはいえ、そんなことをする機会はきっと来ない。
学友たちが哀れと考えているほど、わたしはこの環境を窮屈には思っていない。それに他のどなたかにエスコートしてもらったとして、楽しめる自信はないもの。