あなたに呪いを差し上げましょう
噂のなかには、英雄は魅入られてしまったとか、魔女の助けを得たから英雄になったなんて、前後関係がおかしなものとかもある。


ルークさまはなにもおっしゃらないけれど、そうなることを見越してわざわざ昼間からいらしているのかもしれなかった。


多大な戦果をあげた英雄がいなければ、王国は今回のいくさに勝利していない。


その英雄が入れ込むのなら、安全に暮らしたい王国民としては、わたくしを傷つけるわけにはいかない。またいついくさになるかわからないのだもの。


だから、なのかしら。かつてこの国のために首を売り払えと願われた娘のもとに、ルークさまはいまだ通い続けている。


つまりはそれは、ルークさまは、これまでの多大な戦功と清廉さで、民草も貴人も、こちらに手出しができないようにしてみせたということだった。


なにも褒賞を望まなかった無欲な英雄が、ただ話をする自由を望むのであれば、なにも害などないのだから、よけいなことはしないほうがよい。


ルークさまはなにもおっしゃらないけれど、こちらに通い続け、護衛がつき、騎士団の方がいらっしゃったということは、そういうことなのでしょう。


褒賞に、自由や立場、権利や金銭、それから、うつくしいお姫さまや好きなご令嬢との結婚を望むお話は、ごまんとある。

そこでなにも望まないところが、英雄たるゆえんなのかもしれないわ。


わたくしの安寧は、いつもルークさまがくださるのに、わたくしはそれに、いつもなにもお返しできない。


「アンジー、あなたはいつも易々と言葉を選ぶのだね。あなたに私のその長所は効かないのだろう、それならば意味がない」


私ははぐらかされてばかりだ。


拗ねた口調でルークさまが言う。


「あなたはちっとも私になびいてくれないのだから、悲しくなるな」


巷では、あなたが私にたいへん熱をあげている、ということになっているのだそうだね。ほんとうならばどれほどいいか。


「あなたと話をするたび、どんな関係もひとりの持ち分はたったの二分の一だということを、いつも思い知らされるよ。特に色恋に関する限り、すべてが等分だ」
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