あなたに呪いを差し上げましょう
「いいえ、あなたさまでしたら、ひとつ分ですわ。お話をいただきましたら拝命いたします、どうぞご随意に」

「喜んで、ではないだろう。私は等分がいいんだ」


私をそんなばかな男に成り下げようとしないでくれ。


「あら、あなたさまは随分前から奇特な方でしょう」

「なんだって。私はそんなふうに思われていたのか……?」


一体いつから、と焦るルークさまに笑ってしまった。


「奇特も奇特です。あなたさまは言葉選びも服や贈りもののご趣味もよろしくて、お仕事もご立派で、部下の方にも慕われていらっしゃいますのに、思いをかける相手のご趣味はよろしくないのですもの」

「なにを言う。他はめっぽう拙いかもしれないけれども、女性の趣味だけは抜群によいと思っているよ」


そこで容姿と身分を挙げない女性が、わるいわけがないだろう。


「そもそも評価をするような者がよいわけがない、ということがすっかり抜けていらっしゃいますわ、殿下」

「惚れた弱みというものだろうねえ」


いつも易々と言葉を選ぶのはあなたさまこそでしょう、と恨めしい気分になった。


うつくしく手ざわりのよいリボンを結ぶように、着々と囲われて、結ばれて、逃げ場がなくなっていく。

それをいやだと思う暇もなく。


いえ、いやではないのだけれど。


……ああもう、別にいやでもないのが一番口惜しいわ。


ふと、ルークさまが微笑みを消した。


「……アンジー。名前で呼んではくださらないのか」


ひゅうと、喉は鳴らなかったかしら。顔は、ヴェールごしでもわかるほど、青くなっていないかしら。


わたくしはルークさまを、ことさらに殿下と呼ぶようになった。もしくはあなたさまと呼ぶようにしている。


だって、身分を鑑みても立場をとっても、わたくしがひとつめのお名前を呼ぶのはおかしいもの。


ルークさまと呼べていたのは、儚くても、お互いに相手を知らない、ただの話し相手だと、一応の建前があったからだもの。
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