あなたに呪いを差し上げましょう
「……わたくしは呪われております」

「すてきな言祝(ことほ)ぎをありがとう。おかげで無事だった」

「あれは呪言(ことほぎ)ですわ」

「いいや。たしかに言祝ぎだったよ」


ああ。あんなひどいことを言ったわたくしに、やはりこのひとは、あのときもいまも変わらず、あなたはやさしいと笑うのね。


ほんとうにやさしいのはあなたさまこそでしょう。やさしくてうつくしくて、聡明で、懸命なひと。


「……わたくしには教養もございませんのに」

「あなたは充分学んでいらっしゃる。勤勉でもある。それに、仮にあなたほどの方が無教養とそしられても、申し訳ないけれど、そもそも英雄の妻に一般の女性以上の教養など求められない。私がこの体たらくだからね」


あなたの苦手なことも、しがらみも、私が精一杯取りのぞこう。困ったときは一緒に考えよう。ただ、ふたりで穏やかに暮らしたいと、思うよ。


「少し、考える時間をいただけませんでしょうか。気持ちに整理がついていなくて……」

「もちろんだ。いくらでも待つ」


これだけ乞われて蔑ろにできるほど、わたくしは非道でも愚かでもなかった。

なにより、ルークさまはとてもすてきな方で、穏やかな暮らしをわたくしも夢見ていた。


「頼むから、いつか、どんな形でも構わないから、返事だけは残してほしい。いなくならないでくれ」

「……はい。お約束いたします」


ありがとう、だなんて笑ったルークさまの目が、いつか冷めてしまうのではないか。わたくしのせいでご迷惑をかけるのではないかと不安もある。


でも、怖さ以上に、嬉しさが優った。父に連絡して許しをもらえたら、お話をお受けしようと思った。
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