あなたに呪いを差し上げましょう
久方ぶりに父に連絡を取った。

手紙だけで済むようにと詳しく書いたのに、実に珍しく父の字で先触れの手紙が来て、正装に身を包んだ父がやって来た。


父にとっては着慣れた服なだけかもしれないけれど、こんな汚れやすい場所に一張羅で来るなんて。


仕事帰りなのかしら。登城するような大きな仕事の話は耳に入っていないけれど、もしかしたらわたくしが世俗に疎すぎるだけかもしれないし……。


不思議に思いながら迎え入れたわたくしにゆっくり頷くと、手慣れた仕草でわたくしが引いた椅子に座る。


そんなところが目についた。


ルークさまはわたくしが椅子を引く前に自分で引き、食器を持ち、扉を開けてくださる。どちらがよい、わるいという話ではなく。


あのお方は、やはり、王族である前に軍人なのだわ。


自分のことは自分でできなければ、戦場では生きていけないのでしょう。特別扱いを厭うご様子もあるものね。

もしくは、わたくしが、その。女性扱いをされているということなのかもしれないけれど。


「殿下からもたしかに婚約願いのお手紙が届いている。よいお話だが、おまえはどうしたいのだね。無理に嫁げとは言わない。家のことも考えなくてよい。おまえが思うようにしなさい」

「ありがとう存じます。殿下はとてもおやさしい方です。わたくしも、あのお方のおそばにありたいと思います」


決め打ちしたわたくしの返事に、父の目が少し揺れた。


「……殿下はおやさしい方なのか」

「ええ、とても。わたくしを、アンジーと呼んでくださって。あなたは赤が似合うと、笑ってくださいました」


今度こそわたくしが淹れたお茶を飲んでくれた父は、そうか、と低く呟いた。


「それは、よいお方だね」

「はい。とても」
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