あなたに呪いを差し上げましょう
自分の顔をわかってやっているに違いない。


端整な顔立ちでなければ許されない台詞と表情だもの、確信犯に決まっている。いままで許されてきたから、そんな顔ができるんだわ。


きつく握りしめた手のひらはドレスに隠して、慌てて平坦な声をつくった。


「……ではわたくしも、ルークさまとお呼びしてもよろしいでしょうか」

「ええ、もちろんです」


それ以外の選択肢が見当たらなくて、仕方なく明らかな社交辞令を述べたわたくしに即答したルークさまは、にこにこ笑っている。

ああもう、ほんとうに、悔しいくらいお顔立ちが整っている方ね。


からかわれているとわかっていても、勝手に心臓がうるさくなる。


ルークさまなんて全然呼ぶ気はないけれど、ありがとう存じます、と控えめにお礼を言っておいた。


ルークではなくてルークさまにしたのは、このうつくしいひとの身分がわからないから。

不敬罪は遠慮したい。間違ってもルークなんて呼ばないように、心のなかでもルークさまって呼んでおいたほうがいいかもしれない。


「私はどのようにお呼びすればよろしいですか」

「アンジェリカとお呼びくださいませ」


にこやかな笑顔のルークさまに淡々と言ったら、ひどいお方だ、と流麗な眉が上がった。


「アンジェリカ嬢。私は愛称を教えていただきたいのですが」

「……アンジェリカとお呼びくださいませ」


これは手厳しい、とうなだれてみせる男にきつく唇を噛む。

きっとなにげなく口にしたはずの言葉なのに、胸が痛かった。


だれもわたくしの愛称なんて呼ばなかった。ただそこにいないもののように扱われた。


……わたくしに、愛称なんて。
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