あなたに呪いを差し上げましょう
「……ずるいお方」


じとりと目を細めると、「私にもあなたに効く長所があってよかった」と実ににこやかに微笑まれた。


なにを言っても甘ったるく返されることはわかったので、素直に言ってしまうことにする。


「欠点の見当たらないお方が、なにをおっしゃるのです」

「そうか。私はあなたにとって不足がないか。それは嬉しいな」


アンジー。アンジェリカ。


「しあわせになろう」

「はい。しあわせになりましょう」


流血の歴史はいまだ続いている。


土地は荒れ果て、民草は(かつ)えて喘ぎ、乾いた日差しが照る。それでも、守りたかったものは、手放さずにすんだ。


やわらかな風が吹く。


呪われ令嬢と呼ばれるわたくしは、特別なちからもなく、呪えもせず、けして役には立てなかったけれど。


それでも、このいとしい場所に、やわらかな風は、明日も吹くのだ。


明日も、明後日も。何十年後だって、きっと。


「これからはルークさまと、よい夜を祈るだけではなくて、また明日と、次の約束を結べるのですね」


夢みたいだわ、と呟くと、ああもう、と吐息混じりに名前を呼ばれた。


「私はずっと、あなたの騎士になりたかった。せめて英雄になれたならと思っていた」

「いやです。おなりにならなくてよかったわ」

「えっ」

「わたくしの騎士と言うより、わたくしのルークさまと言うほうがすてきですもの」


あなたらしいな、とうつくしいひとが笑った。すっかり馴染んだ微笑みだった。





Fin.
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