あなたに呪いを差し上げましょう
「実は、私は事情があって、宴が終わるまで、きちんと最後までいなければいけません。しかしあの宴に戻りたくありません」


さようでございますか、と気のない返事をした。実は、で始まることがいいことなわけがない。


「ひとりでいるのも寂しくて」

「さようでございますか」

「ほんとうに寂しいと思っているんですよ。それに、ここは冷えますし」

「さようでございますか」


先ほどからわたくし、さようでございますかばかり言っている。


でも他に答えようがない。そうですね、なんて言った日には、面倒ごとが勢いよく転がり込んできそうなんだもの。


「……ルークさま」


まだ言い募ろうとするのを遮って、ヴェールごしに目を見つめた。


「つまり、宴が終わるまでいられて、ひとりにはならなくて、夜風にさらされない場所をお探しなのですね?」

「ええ、まあ。そのとおりです」

「馬車はお持ちですか?」

「いいえ」

「ではわたくしの馬車にご一緒にどうぞ」

「……いま、なんとおっしゃいましたか」

「わたくしの馬車にご一緒にどうぞ、と申し上げました」


呆けて立ち尽くしていたルークさまは、しばらくして瞬きをした。


「……私はうぬぼれてもよろしいですか」


かすれた確認に首を傾げる。


「それはどのような意味でしょう」

「私は誘われていますか」

「いいえ、ちっとも。あなたさまのご要望でしょう」

「残念ながらそうですね」


まったく、なにを言い出すのかと思った。


たしかに、よほど親しいとか、知り合いだとかでないと、未婚の男女がふたりで馬車に乗るなんてなかなかないけれど、いまはふざけている場合ではなさそうなのはルークさまのほうでしょう。
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