あなたに呪いを差し上げましょう
「私としては、もう少しここにいてくれませんか、という意味でお誘いしたつもりだったのですが」

「それは承知しておりますが、残念ながらわたくしはもう少しもここにいたくありません」


きりりと真面目に答えると、困った顔をされた。


「……わかりました。あなたがそれでよろしいのでしたら」

「もちろん構いませんわ」


ルークさまが神妙に頷いたのを確認して続ける。


「近くにわたくしの屋敷がございます。宴がひと段落するまで、そちらにいらしてはいかがでしょう。馬車で片道三十分ほどですわ。宴が終わる三十分前ごろに使いを寄越させましょう」


終わるころに戻ってしまえば、帰りの時間はごまかせる。


薔薇園で時間を潰すのも、わたくしの家で時間を潰すのも、出席しないという点では同じだもの、変わりないでしょう。


非常識なことはわかっていながら提案すると、予想どおり面食らった顔をされた。


「お屋敷、ですか?」


普通、令嬢が屋敷と言ったら実家のお屋敷のこと。だから、戸惑うのはわかる。


わたくしの場合は実家ではなくて、わたくしひとりの屋敷のことだけれど、説明すると面倒くさくなりそうで、頷くだけにとどめる。


「屋敷です。お恥ずかしながらたいへん狭いところですが、お茶くらいはお出ししますし、椅子くらいはございます」

「……それは、応接間ということですよね?」

「屋敷とは名ばかりのたいへん狭い屋敷でして、一部屋しかございませんので、応接間とも私室とも言えると思いますわ」

「つまりそれは、あなたのお部屋ということでは……」

「ええまあ、平たく言えばそのとおりですわね」


アンジー、と低く抑えた声がわたくしを呼んだ。頭痛をこらえるみたいな顔をしている。
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