あなたに呪いを差し上げましょう
「申し訳ございません。わたくしは他に隠れ場所を存じませんので、そちら以外はご案内できかねます」

「お心遣いはたいへん嬉しいのですが、初対面の男をお部屋に招くのはおやめになったほうがよろしいかと思いますが」

「まあ。大丈夫ですわ。あなたさまはそんなおつもりはないのでしょう?」

「……もちろんそうですが、そういうことではなくて」

「大丈夫ですわ」


静かに繰り返したわたくしに、いいえ、とルークさまも繰り返した。


「私がどうということではなくて、アンジー、あなたのことです」

「わたくし、ですか?」


よくわからなくて聞き返すと、言いにくそうに口ごもってから、ゆっくり口を開いた。


「アンジー。とてもありがたいお話です。急な話にそのようなお返事をくださること、たいへんありがたく思います」


ルークさまは念入りに前置きをして、わたくしを見据える。


「ですが、あなたはよろしいのですか。私が言えたことではありませんが、その……真夜中に男とふたりきりでは、あまりに外聞が悪いのではありませんか」


……がいぶんがわるい?


あまりに意外すぎて、思わず一瞬呆けてしまった。


婚約中は気をつけていたけれど、婚約破棄が成ったいま、遠慮をする相手はいない。そもそもわたくしは、どうせ忌子なのだもの、外聞など気にしていられない。


「まあ。ありがとう存じます」


思いもよらない心配に、おやさしいのですね、と喉を鳴らしてころころ笑った。


ほんとうにこのお方は、よほどの世間知らずか、この国のことを知らないひとであるらしい。


「あなたさまの先ほどのお言葉は、隠れ場所を提供してほしいという意味かと思いましたけれど、違いますでしょうか」

「違いませんが……」


でしたら大丈夫です、と笑った。
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