あなたに呪いを差し上げましょう
しばらくがたごと揺られると、到着したらしい。御者に声をかけられて、手を借りながらそっと馬車を降りる。


物珍しげな視線を背中に浴びながら、人ひとりがようやく通れるような踏みしめただけの小道を先導し、はびこる緑をくぐり、重く鈍い門を押す。


屋敷に着いてすぐ、手持ちのなかで一番上等な茶葉を匙ですくって、熱いお茶を淹れた。


「お体が冷えたでしょう。どうぞ」


椅子をすすめ、来客用の上等なティーカップに注いでお出しする。


戸棚を探すと、日持ちする焼き菓子があった。上等なものではないけれど、そこはお許し願いたいわ。


「ありがとうございます。よい香りですね」

「柑橘の香りですの。お茶は熱くありませんか」

「ちょうどよいですよ。隠れ家も美味しいお茶もありがとうございます」

「いいえ」


ちらりと見遣った仕草は上品で洗練されていて、隙がなかった。


「アンジーは、こちらには、いつから」

「いつだったかしら。随分昔のことで、忘れてしまいましたわ」


素朴な菓子をつまみ、手持ち無沙汰に紅茶を傾けて、ぽつりぽつりと話をする。


お互い探り探り話題を振るので、遅々として進まない。それでもけして、いやな気はしなかった。


話の合間を縫って、月明かりにうっそりと照らされた窓の向こうで、ピョーイと鳥が鳴いた。


「いまの音は……」

「夜鳴鳥ですわ。ここは森が近いものですから、一日中、鳥の鳴き声が聞こえますの」


驚いたように瞬きをされる。


「鳥は夜も鳴くのですか」

「ええ」


口元にはいた微笑みを崩さないようにしながら、言いかけた言葉を飲み込んで、ティーカップを傾けてごまかした。


夜に鳴く鳥なんて、王国では別段珍しくない。
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